2020年7月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ

« 2009年7月 | トップページ | 2009年9月 »

2009年8月

2009年8月31日 (月)

NEDOが食料と競合しないバイオ燃料の開発研究への支援を発表

 ここ最近、原油価格が落ち着いているせいか、石油に代わる代替燃料への社会的関心が薄れているようだけど、将来的には石油の枯渇は確実にやってくるわけで、再生可能な石油代替燃料の開発は進めとかなくちゃいかないわけですよね。ただし、現在のバイオエタノールは、食料と競合しちゃうわけでいろいろと問題がある。そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、食料と競合しないバイオ燃料を低コストで、効率よく製造できる技術の実用化研究を支援することを発表しました。

 詳しくは、以下のリリースをご覧いただきたいですが、北川鉄工所、三菱化学、住友林業、日東電工、三菱重工業の5社を選定し、今年度から3年間かけて6億円を投じるというんですよ。

 じゃ、どんな研究開発テーマになっているかというと、①稲わらなどの草本系バイオマス資源の輸送、貯蔵コストの低減を目指した乾燥技術、ペレット化装置の開発など(北川鉄工所、三菱化学、住友林業)、②膜技術を利用したバイオエタノール製造に関する要素技術の開発(日東電工)、③バイオ燃料合成のためのバイオマスガスの低コスト精製技術の開発(三菱重工業)となっています。以下のサイトから、さらに詳しい委託先一覧もダウンロードできますので、ご興味のある方は、ぜひチェックしてやってください。

 ただ、この研究開発テーマを見て、どれも重要なテーマだと感じつつも、なんか本質をずらしていないかなぁって思えるんですよ。

 結局、食料と競合しないバイオマス資源というと、木質系バイオマス、草本系バイオマスってことになるわけですよね。例えば、トウモロコシだって、実の部分ではなく、茎、葉、根(その筋では“コーン・ストーバ”と呼ぶそうですね)を原料に燃料にできればいいわけだし、材木を原料にできれば、間伐材の有効活用はもちろんのこと、建築廃材も燃料にできることになり、未利用資源の有効活用になる。

 ただし、木質系バイオマス、草本系バイオマスの主成分はセルロース、ヘミセルロース、リグニンでしょう。当然、セルロース、ヘミセルロース、リグニンをいかにして燃料として利用できるエタノールにするのかが、食料と競合しないバイオ燃料開発の本丸なんだと思うんだけど、今回、支援が決まった3テーマは、ちょっと違いますよね。

 貯蔵方法や集材技術の開発は重要だと思うけれど、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを燃料化できないことには、あんまり意味はないんじゃないでしょうか。そのままもやしねサーマル・リサイクルするっていうのも“あり”かもしれないけれど、それは、食料と競合するバイオ燃料に代わる存在を目指すものじゃなくなっちゃいますよね。

 それに、膜技術を利用したバイオエタノール製造に関する要素技術なんて、別に食料と競合する、現在のバイオエタノールにも使える話で、今回の助成枠の理念に必ずしも合致するものじゃないように思うんだけど・・・。

 とはいえ、セルロース、ヘミセルロースの燃料化は難しいのはわかっていますよ。研究室レベルでは可能であっても、採算性を考えると、なかなか実用ラインには乗ってこないわけだから、数年以内の実用化を目指すNEDOの助成枠では、そのあたりの研究を支援することは難しかったのかなぁ。ましてやリグニンなんて使い物にはならないって判断が働いているのかもしれませんね。

 というわけで、個人的には「食料と競合しない」と銘打つのであれば、リグニンはともかく、セルロース、ヘミセルロースを原料とした、低コスト、低エネルギーで採算性のあるバイオエタノールの製造法の開発に取り組んでもらいたいと思ってしまいました。

http://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/press/FF/nedopressplace.2009-06-08.5858382467/nedopress.2009-08-27.0692921450/

 ではでは・・・。

2009年8月29日 (土)

無重力状態でのES細胞の培養に成功!

 近い将来、再生医療が日常的な医療技術になるには、未分化の細胞を、未分化の状態に維持したまま大量に培養する必要があります。その点で、注目すべき研究成果が発表されたと、毎日新聞が報じています。

 詳しくは以下のサイトをご覧いただくとして、簡単に記事内容を紹介しておきますと、この研究は広島大学大学院保健学研究科の弓削類教授らの研究グループが行ったもので、弓削教授が三菱重工業などとともに開発した、地球上で無重力環境(正確に言うと微小重力ってことでしょうね)を作ることができる“3次元重力分散型模擬微小重力装置(3D-クリノスタット)”を用いてマウスES細胞を培養したというものです。

 通常、地球の1Gの環境でES細胞を培養しようとすると、ウシなどの血清(FBS)を含む培養液や細胞の分化を抑える分子などを加える必要があるのですが、弓削教授は、無重力下では細胞が分化しにくくなるということに着目し、ES細胞を無重力環境で培養してみたところ、FBSなどを加えることなく培養でき、しかも、分化も進まなかったということです。

 分化を進ませずに培養ができるっていうのは、再生医療のためのセルリソースを確立する上で非常に重要な知見だといえるのですが、どうして培養したのがES細胞だったんでしょうねぇ。

 再生医療の研究用にES細胞を用いることをまったく否定するつもりはないんですが、ES細胞を臨床応用することは非常に難しいわけで(私は不可能と思っていますが)、だったら臨床応用の可能性があるiPS細胞を用いたほうがよかったんじゃないかなって思うんです。

 記事中では、弓削教授の「ヒトES細胞やiPS細胞で試したい」とのコメントも紹介されているだけに、せっかくなら最初からヒトiPS細胞でやればよかったんじゃないかって思ってしまうんですよ。

 といっても、この記事だけでは、いつから研究が実施されたのか書かれていないので、もしかしやら実験は、理研BRCからiPS細胞が提供される以前に実施されたものなのかもしれません。そのあたりの背景がわかっていないので、「なんでiPS細胞じゃないの?」なんて言っても意味がないので、これ以上書きませんが、だからこそ今後の研究の進捗には期待大ですね。

 培養液に異種の血清を用いることに対して、安全性の面で懸念を示す声もあるようですから、弓削教授の研究成果を活かして、FBSなどを添加せずに大量培養できる技術が確立できれば、再生医療の実用化に向けて、大きな後押しになるでしょうね。

http://mainichi.jp/select/science/news/20090825k0000m040039000c.html

 ではでは・・・。

2009年8月28日 (金)

いっぱい食べても脂肪の蓄積を抑えられそうだけど・・・

 思い存分食べても太らないでいられたらこんなにいいことはないんだけど、そんなことが実現させられる可能性を秘めた研究成果が発表されました。

 以下の朝日新聞の記事によると、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の上杉志成教授の研究グループが、細胞内で脂肪の合成を抑える化合物を発見したというのですよ。

 といっても、上杉教授の当初の研究目的はがんを予防する化合物の探索だったようです。アメリカのベイラー医科大学、東京大学との共同研究で、がんを抑える作用があるとされる化合物の働きを調べていたんだそうですが、この化合物を脂肪にかけると、働きが落ちる遺伝子が多数あり、その多くが脂肪合成にかかわっていたことから、脂肪との関連に注目。食欲が減衰することなく太ってしまう遺伝子異常のマウスに投与すると、体重の増加、血糖値の上昇を抑え、脂肪肝になるのを予防できたんだそうです。

 この化合物はファトスタチンと名付けられており、その分子機序も詳しくしらべられているんですが、糖から脂肪を合成するする際に働く複数の遺伝子のスイッチを入れる“親玉”の遺伝子の働きを阻害することで、脂肪の合成を抑えられるんだと報じられています。

 ならば、ファトスタチンの実用化を期待したいところだし、記事でも「糖尿病や脂肪肝等の治療薬の開発につながる可能性がある」と紹介しているんだけど、今回の研究成果で明らかになったのは、脂肪が蓄えられる、つまり、肥満になっている過程で働く遺伝子の働きが阻害されることが明らかになったわけで、肥満になっている人を痩せさせる効果は明らかになっているわけですよね。そのため、記事の最後で、上杉教授による「肥満になった後も効果があるかどうか調べたい」とのコメントを紹介しているけれど、すでに細胞内に蓄えられた脂肪を分解してくれるのかどうか・・・、ここが気になるところですね。これを確かめるのは今後の課題ってところなんでしょう。

 ですから、薬として実用化するには、もう少々時間かかりそうですが(最低でも10年ぐらい?)、興味深い研究成果だけに、今後の研究の推移にも注目することにいたしましょうか・・・。

http://www.asahi.com/science/update/0828/OSK200908270148.html

 ではでは・・・。

2009年8月27日 (木)

精神疾患の診断に活用できる血液成分を発見

 以前、取材で伺ったところでは、うつ病や統合失調症などの精神疾患は、医師による問診や行動観察で診断はできても、血液中の特定の分子の量の変化などから客観的に確定診断を下すことはできなかったんだそうです。

 そのため、診断があいまいになってしまうことがあって、精神疾患の病態を正確に診断するための指標とする分子の存在が求められていたわけですが、毎日新聞の記事によると、大阪市立大学大学院医学研究科の関山敦生客員准教授らの研究により、精神疾患の診断に活用できる血液中の分子を発見したんだそうです。

 いつものことながら、詳しくは以下のサイトをご覧いただくとして、簡単に記事内容を紹介しておくと、関山准教授らは、細胞間の情報伝達物質であるサイトカインの血中濃度について、3000人近くのデータを集め、それを詳しく分析することで、心身の変調やうつ病、統合失調症などを判定に利用できるタンパク質を見つけたというんですよ。

 しかも、うつ病、統合失調症について、見つけたタンパク質を活用した判定法を開発し、実際に400人を診断したところ、正しく診断できた確率はうつ病では95%、統合失調症では96%だったそうです。

 この95、96%っていう正診率が、実際の診断に使えるものと評価できるかどうかは、私にはわからないんですが、これまで客観的な診断を下す基準がなかったことを考慮すると、従来からの問診、行動観察による診断を強くサポートする客観的な基準になるんじゃないでしょうか。

 また、記事では、精神疾患の診断への活用だけでなく、健常者のストレス判定に利用できることを紹介しています。ストレスの判定も客観的な指標がなく、無理をしすぎて突然死なんてことを引き起こしてしまっていただけに、関山准教授らが見つけたタンパク質は、健常者の健康管理でも活用できそうですね。

http://mainichi.jp/select/today/news/20090826k0000m040145000c.html

 ではでは・・・。

2009年8月24日 (月)

痛くない注射針って実用化できるのかなぁ?

 ナノテクというほどの微細加工技術じゃないけれど、注射針を微細化することで、痛くない注射を実現しようとする研究が進められています。

 こうした研究は日本でも進められていたと記憶しているんだけど、今回はアメリカの話。以下に紹介するニュースサイトによると、ジョージア工科大学のマーク・プラウスニッツ准教授は、微細な針を剣山上に配置したパッチを発表したようです。

 以下のサイトにパッチの写真も掲載されているのぜひご覧いただきたいのですが、小さな絆創膏の表面から小さな針がいくつも飛び出しているような感じで、これを皮膚に貼るだけで、注射ができるっていう仕組みのようです。

 パッチを貼るだけなので、医療機関にまで出向かなくとも、薬局などで購入して、患者自身が自分で注射をすることも可能になると期待されており、2010年には臨床試験を始る目論見のようなんですが、こういう注射器ってどれほどニーズがあるんでしょうねぇ。

 糖尿病であれば、患者自身が定期的にインシュリンを注射しなければならないので、こうしたパッチが実用化されれば、それなりにニーズはあるとは思うけれど(これだけでも市場は結構大きいのかな?)、注射をされるっていうのは、医師の診断があった上でしょう。だったら、そのまま医師に注射してもらえばいいわけで、痛くないことだけを求めて、こうしてパッチを選択する人はどの程度いるのかどうか・・・。

 それに、従来からある注射器に比べて、それなりにコストも高まるだろうから、医療経済的にもあまり競争力の高い医療機器になるとは思えないんですが・・・。

 まぁ、新たな技術が開発されれば、新たなニーズが掘り起こされることはよくあることです。このパッチ型の注射器が実用化できるぐらいになれば、「注射を打たれるならパッチ型で・・・」と思う人も増えるかもしれませんね。

http://www.sciencedaily.com/releases/2009/08/090819110010.htm

http://wellness.blogs.time.com/2009/08/19/a-patch-to-take-the-ouch-out-of-shots/

 ではでは・・・。

2009年8月22日 (土)

iPS細胞研究について「落ち着いて」考える会が発足!

 このブログでも事あるごとに取り上げているiPS細胞研究ですが、ライフサイエンスの1ジャンルの研究領域でありながら、多額の研究資金が投入され、国際的な競争も激化し、実にホットな状況が続いていることは、皆さんもご存知のことでしょう。

 ですから、科学記事を書くことを生業にしている私は、iPS細胞関連の研究成果となれば、つい注目してしまうわけですが、研究者は「まぁまぁ、そんなにホットにならず、落ち着きましょうや」って感じなのかもしれないですね。そんなことを考えさせる研究会が、9月に発足されることになったと毎日新聞が紹介しています。

 詳しくは、以下のサイトの記事をご覧いただきたいのですが、9月に「iPS細胞を用いた癌研究について落ち着いて考える会」と題したイベントを開催するというのです。このイベントについては、以前、京都大学物質細胞統合システム拠点iPS細胞研究センター(CiRA)のサイトでも紹介しておりました。

 イベントの申し込み受け付けがすでに終了しているためか、イベントの詳細な情報は削除されていますので、毎日新聞の記事で参考に紹介しますと、がん患者を精神的に支える「がん哲学外来」を開設した、樋野興夫・順天堂大学教授が代表世話人に就任し、iPS細胞の樹立法を開発した山中伸弥教授も顧問として参加するようです。

 そして、会の趣旨に関して、樋野教授の「iPS細胞研究もがん研究も、多くの人が進展を期待している。結果を急がず、落ち着いて本質をとらえる姿勢が必要」とのコメントを、また、山中教授の「着実な成果を上げていくため、幅広い分野の研究者が参加し、あわてずに研究を進める取り組みは重要」とのコメントを紹介しているんですが、まぁ、これらのコメントについては、「ごもっとも!」としか言いようがありません。私自身、iPS細胞の研究に限らず、研究者のみなさんには落ち着いて(かつ猛烈に)研究を進めていったもらいと思っております。

 ただね、だからといって、こうした趣旨のイベントが実施されるっていうのには大変、興味を持ってしまうんですよ。落ち着いて研究して、着実に成果を得ていく・・・、至極、当然のことのようなのですが、あえて、そのことを趣旨とした会を設立し、イベントを開催するっていうのは、研究者たちのどういう心理が働いてのことなのか・・・。気になりますねぇ。やっぱり、iPS細胞の研究者たちは、社会からの多大なる期待を受けて、それをプレッシャーと感じているのでしょうか。

 社会から期待されるっていうのはいいことだと思うけれど、過度の期待から、研究データを捏造してしまうとったスキャンダルが過去になかったわけではありませんからねぇ。自身が携わる研究分野がホットになればなるほど、研究者って「まぁまぁ落ち着きましょうや」という気持ちになっているのかもしれません。

 残念ながら、私に許されている取材経費では、今でも申し込みを受け付けていたとしても、今回のイベントへの参加は見送らざるを得ないんですが、「落ち着いて研究しましょう」ということを銘打った科学研究のイベントを例がない(と思う)だけに注目してしまいますねぇ。新聞、テレビの事後報道を期待するといたしましょうか。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090819k0000e040096000c.html

 ではでは・・・。

2009年8月21日 (金)

メディカルバイオ誌2009年9月号の2件の記事を書きました

 明日、発売になりますメディカルバイオ2009年9月号の2件の記事を書きましたので、ご紹介させていただきます。

 1件は、6月に文部科学省が発表しました『iPS細胞ロードマップ』に関連して、ロードマップの製作に携わった、菱山豊・元ライフサイエンス課課長のインタビュー記事と、ロードマップにも盛り込まれていたiPS細胞のバンク事業に関して、理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンサー細胞材料開発室の中村幸夫室長にインタビュー記事を書いております。

 それから、もう1件は、いつもの連載「プレカーサー(先駆者)」でして、今回は間葉系幹細胞をベクターに用いた自殺遺伝子療法で悪性脳腫瘍を治療しようとしている、浜松医科大学脳神経外科の難波宏樹教授のルポを書きました。

 自殺遺伝子療法は、元々はNIHの研究グループによって開発された治療法でして、がん細胞に遊走する性質をもった、プロドラッグを薬効のある薬に変える酵素を組み込んだウイルスベクターを患者に投与し、選択的にがん細胞だけで薬効があらわれ、がん細胞を殺すという治療法です。しかし、過去、人間の患者を対象に実施された臨床研究では期待された効果が得られず、研究は頓挫してしまいました。そこで、難波教授は、ウイルスベクターではなく、患者自身の間葉系幹細胞をベクターに使うことで、自殺遺伝子療法を復活させようとする研究を進めています。

 もし、機会がありましたら、ご一読いただければ幸甚です。

http://www.ohmsha.co.jp/medicalbio/

 ではでは・・・。

2009年8月20日 (木)

下水処理水に含まれる微量タミフルで耐性ウイルスになる?

 従来、ウイルスが薬剤耐性を獲得するのは、抗ウイルス剤を投与された患者の体内で生き残ったものが薬剤に対する耐性を獲得したからだと考えられてきたわけですよね。でも、そうした考えとはちょっと異なるメカニズムでウイルスが薬剤耐性を獲得するかもしれないという可能性を、京都大学の研究者が示唆しているとの話題を、読売新聞が報じています。

 詳しくは以下のサイトの記事をご覧いただきたいのですが、研究成果を発表したのは京都大学流域圏総合環境質研究センターの田中弘明教授と、博士課程3年のゴッシュ・ゴパールさんの研究グループは、インフルエンザの特効薬として使用されるタミフルが、服用した量の約80%がそのまま対外に排泄されていることに注目。下水処理水に含まれるタミフル濃度を測定したところ、最も高濃度であった時には下水処理水1リットル中に約300ナノグラムもあったことから、タミフルを含む下水処理水が河川に排出され、インフルエンザウイルスが感染した水禽がタミフルを含む水を飲みこむことにより、水禽の中でインフルエンザウイルスがタミフルに対する薬剤耐性を獲得するのではないかと指摘しているのです。

 実に興味深い指摘ではあるんだけど、こうした仕組みで、インフルエンザウイルスがタミフル耐性を獲得し、それが流行株になるってことは本当にあり得るのかって疑問を感じてしまいました。

 というのも、環境中に放出されたタミフルに曝されることで、インフルエンザウイルスがタミフル耐性を獲得する場となるのは水禽の体内なわけでしょう。だったら、そのウイルスも水禽に感染しやすいものなわけだから、それがすぐに人間に感染するってことはないわけですよね。

 水禽の体内でタミフル耐性を獲得したウイルスが、ブタに感染して、ブタの体内で人間に感染するウイルスとハイブリッドを起こして、人間に感染するウイルスがタミフル耐性を獲得する可能性は否定しきれないけれど、そのリスクってどれほどのものなんでしょうか。そんなふうに考えると、今回、提唱された仕組みで、インフルエンザウイルスがタミフル耐性を獲得し、それが流行して社会がパニックになる確率はすごく低いように思うんですが・・・。だって、こんなことが起こるなら、人間の体内に感染しているウイルスがタミフル耐性になって脅威になるほうが確率的にずっと高いわけでしょう。

 それに、記事では、沈殿処理した下水を浄化する標準的な処理ではタミフルを40%以下しか除去できなかったものの、オゾン処理を行えば90%は処理できるとも紹介しています。だったら、オゾン処理を行えば、問題ではなくなるって考えてもいいのかもしれませんね。でも、河川水中の濃度が最大約200ナノグラム/リットルだとも紹介されていますが、けっこう高い数値ですね。この点はちょっと気になるのなぁ。

 ですから、タミフル耐性を獲得するかどうかはともかく、人工の化学物質が環境中に放出されることはいいことではないので、できればオゾン処理を導入してもらってタミフルを無害化処理(といっていいのかな?)してもらいたいものですよ。

http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20090815-OYO1T00311.htm?from=main2

 ではでは・・・。

2009年8月19日 (水)

海の外来生物 法規制ってどうやってやるの?

 陸上、淡水に定着してしまった外来生物については、外来生物法(正式名称は「特定外来生物による生態系等にかかわる被害防止に関する法律」)が施行されたことによって、販売、移動、飼育が禁じられています。これにより新たな生息域の拡大を抑える手立ては打たれたわけですが、海の外来生物については法規制は整っていないと、朝日新聞が紹介しています。

 海の外来生物については、これまで東邦大学の風呂田利夫さんが問題提起をされてきたので、イッカククモガニ、チチュウカイミドリガニ、アメリカフジツボ等の問題はしばしば耳にしてきました。ただし、「問題になっているんだなぁ~」ってぐらいにしか認識していなかったから、どれほどの種数の外来生物が侵入してきているのかわからなかったんですが、この朝日の記事では、100人を超える研究者が協力し、7年をかけてデータをまとめたところ、日本の沿岸海域に侵入した外来生物は76種にのぼり、このうち36種は完全に定着していると紹介しています。

 ブラックバスのように一種類が侵入しただけでも、侵入先の生態系が撹乱されてしまう可能性をもった生物がいる一方、侵入、定着の事実が確認されていても、外来生物法の指定種にならないような生物もいるので、76種類という数字を評価するのは難しいわけだけど、朝日新聞の記事を読む限り、データのとりまとめに加わった研究者は強い危機意識を持っているようですね。

 じゃ、外来生物法を海の生物にも拡大適用できるようにすればいいのかもしれないけれど、今回、問題視されている海の外来生物は、意図的に持ち込まれたものだけじゃないわけでしょう。

 養殖用に持ち込まれたもの(28種)、輸入されたものが逃げ出したもの(15種)については、外来生物法の指定種にして、人間の行為を規制すれば、新たな侵入は抑えられるのかもしれません。でも、船舶に付着したり、バラスト水に紛れ込んで侵入したもの(29種)に関しては、外来生物法によって人間の持ち込み行為を規制するだけでは対応できないんじゃないでしょうか。

 バラスト水については、未発効のままのようですが、バラスト水管理条約(International Convention for the control and management of Ships' Ballast Water and Sediments)があるので、これを発効させれば、ある程度、バラスト水によって運ばれる外来生物の侵入を抑えることも期待できのでしょう。ただ、以前、バラスト水問題については取材したことがあるんですが、技術的にはけっこう難しいそうですね。それに、船舶への付着ってことになると、規制しようがないんじゃないでしょうか。

 朝日新聞の記事では、「新しく入り込むのを防ぐ手立てが必要だ」との一文で締めくくられているのには、「ごもっとも!」としかいいようがないんだけど、具体的にどうすればいいのか・・・。どういう対策があるのか、具体的に提示してもらいたかったなぁ。

http://www.asahi.com/science/update/0812/TKY200908120140.html

http://www.asahi.com/science/update/0812/TKY200908120140_01.html

 ではでは・・・。

2009年8月15日 (土)

スズメバチを撃退するため、ミツバチは二酸化炭素を使っていた!

 ニホンミツバチはスズメバチに襲われると、集団でスズメバチを取り囲み、布団蒸しのようにして熱さで殺すことはよく知られていると思います。200匹から300匹ほどのニホンミツバチが、スズメバチを囲む「蜂球」をつくることで、内部の温度が44~46℃に達するため、スズメバチは蒸し殺されてしまうというわけです。

 ところが、ニホンミツバチは熱だけでなく、二酸化炭素も活用してスズメバチを殺していたということを、京都学園大学バイオ環境学の坂本文夫教授らの研究グループが明らかにしたと、京都新聞が伝えています。

 詳しくは以下のサイトの記事をご確認いただくとして、簡単に記事内容を紹介しておくと、まず坂本教授らは人工的な高温環境下でスズメバチが死ぬかどうかを調べたところ、蜂球の内部が46℃程度でも10分程度でスズメバチが死ぬのに対して、人工的な高温環境下でスズメバチを殺そうとすると48℃にまで熱くしなければらななかったというんです。

 わずか2℃の差でしかありませんが、坂本教授らは蜂球の中には熱以外にも何かスズメバチを殺す要因があると考えたようで、調べてみると蜂球内部の二酸化炭素濃度が、人間の呼気とほぼ同じ3%であありました。実際、二酸化炭素濃度を高めた環境なら、46℃でもスズメバチが死ぬことを確認したというんですよ。

 記事中の坂本教授のコメント指摘されていますが、スズメバチを殺す主要因は熱であることは間違いないんだけど、そこに二酸化炭素が加わることで、さらに殺しやすくなって、二酸化炭素濃度が高くない状況よりも低い温度でスズメバチを殺せるようになったんでしょう。

 ただ、こういう研究でいつも感心させられるのは、よく気づいたなぁ~ってことですよ。というか、そもそも最初に人工的な高温環境下でスズメバチを殺してみるっていう実験を行ったのには、どういうモチベーションがあったんでしょうね。最初から、熱以外に何の要因があって、ミツバチはスズメバチを殺しているに違いないっていう仮説があったんでしょうか。気になるところです。

http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2009081300108&genre=G1&area=K00

 ではでは・・・。

2009年8月14日 (金)

温暖化論争が裁判沙汰にまで発展!

 地球温暖化に関して、テレビではCO2を原因とする従来からの学説の踏襲し続けていますが、出版業界では懐疑論の書籍が数多く出版されていますよね。これまで地球は温暖化しているものとして報じることが多かった日経エコロジーの今月号でも、『科学者の9割は地球温暖化CO2犯人説はウソだと知っている』(宝島新書)などの著書で知られる丸山茂徳・東京工業大学教授による対談(対談のホストは小説『ハゲタカ』の著者の真山仁さんです)が掲載されており、懐疑論も一般化したんだなぁ~って感じておりました。

 だけど、地球温暖化の懐疑論を巡って、裁判沙汰になるなんてことが起こっているのには、正直言って、驚かされましたよ。産経新聞が報じているので、詳しくは以下のサイトでチェックしていただきたいんですが、裁判は『CO2温暖化説は間違っている』(ほたる出版)などの著作がある槌田敦・元名城大学教授が、日本気象学会を訴えたもので、槌田元教授が投稿した論文に対して、日本気象学会が学術雑誌への掲載の拒否を決定したため、精神的苦痛を受けたとして訴えたんだそうです。

 産経新聞の記事によると、日本気象学会側は「2度の改稿を経ても、原告の論文は掲載するに適さないと判断した」として、裁判では全面的に争う姿勢を示しているようなので、論文の内容が科学的かどうか、学術雑誌への掲載に見合ったものであるかどうかをどう争うのか興味があるところです。

 でも、こうした裁判が起こされること自体、地球温暖化“懐疑論”が台頭してきたって証拠でもあるんでしょうね。私自身、過去、従来からの地球温暖化論に基づいた記事を書いてきた一方、一昨年秋ぐらいから懐疑論的な話を書いてくれないかという執筆依頼があって、いくつか仕事をさせてもらっています。

 じゃ、温暖化論者、懐疑論者で侃侃諤諤の論議が行われているのかっていうと、どうも両者の論議ってすれ違っているように思うんですよ。たまに温暖化関連の記事を書くことがあるので、いちおう温暖化論議を傍観しておりますが、温暖化論者、温暖化懐疑論者によるガチンコの討論って、エネルギー・資源学会で行われたEmail討論ぐらいものですよね。このブログでも、書かせてもらった疑問の一つに、太陽活動が停滞しているなら寒冷化するんじゃないかって疑問についても、温暖化論者からの言及はないようだし・・・。

 個々人では討論しているのかもしれないけれど、一般向けのメディアに載った討論はないわけで、もっと論議すればいいのにと思うばかりです。前述の裁判は、あくまでも槌田元教授の論文が科学的かどうか、学術雑誌への掲載に見合ったものかどうかを論議する場になりそうなだけに、また別の機会を設けて、温暖化論者、懐疑論者のガチンコ討論をお願いしたいところです。

http://sankei.jp.msn.com/science/science/090802/scn0908021801001-n1.htm

 エネルギー・資源学会でのEmail討論をご覧になりたいからは、以下のサイトからPDFファイルをダウンロードしてください。

http://www.jser.gr.jp/

 ではでは・・・。

2009年8月13日 (木)

不老不死のベニクラゲ 若返りに3度成功!

 皆さん、ベニクラゲというクラゲをご存じでしょうか?

 傘の直径は数mmほどの小さなクラゲなんですが、実は、このクラゲ、不老不死なんですよ。正確に言うと、「不老」ってのはちょっとおかしくて、老いる(というか成長する)んだけど、若返ることができるクラゲとして、クラゲ研究者、クラゲ愛好家の間ではけっこう有名なクラゲなんですよ。

 じゃ、どうやってベニクラゲは若返るかなんですが、これをご紹介する前に、クラゲの基本的な生活史を解説しておいたほうがいいですね。

 通常、クラゲは、受精卵から、プラヌラ、ポリプ、ストロビラと成長していき、親クラゲになります。図を見ればすぐにわかると思いますので、「クラゲ 生活史」をキーワードに、Googleで画像検索してください。きっといい解説図がヒットしてくると思いますよ。

 で、一般的なクラゲは、親クラゲになったところで、有性生殖して受精卵を作って、そこで死んでしまうのですが、ベニクラゲはポリプの状態に戻ることが知られているんです。だから「若返りする」、「不老不死する」と言われているのです。

 こうしたベニクラゲの若返りは、イタリア、レッチェ大学のボエロ博士によって世界で最初に報告されたのですが、日本では京都大学瀬戸臨海実験所(和歌山県白浜町)の久保田信准教授が、日本産のベニクラゲでも同様の若返りが起こることを報告しています。その久保田教授が、何度若返るのかを試すという実験を行ったという記事を、紀伊民報が報じています。

 詳しくは以下の記事を読んでいただくとして、簡単に記事内容を紹介しておくと、5月に沖縄で採取したベニクラゲのうち、1個体がポリプに戻ったというので、それを和歌山の実験所に持ち帰って、飼育してみると、このポリプから成長したクラゲのうち、一部が再びポリプに戻ったんです。そても2回も・・・。つまり、沖縄での若返りと合わせて、合計3度もの若返り。すごいですねぇ~。

 記事では、「若返りの究明と応用の共同研究に活かしたい」との久保田准教授のコメントを紹介しています。だったら、若返りの分子メカニズムは明らかにされているのかなぁ。何度も若返りができるって聞くと、すぐに「テロメアはどうなっているんだ? テロメラーゼに伸長しているのか?」との疑問が頭に浮かんだんですが、気になるなぁ・・・。記事では、そのあたりまでは触れられていないんですが、分子メカニズムまで研究しているんでしょうねぇ。調べてみようかな。

http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=173353

 実験を行った久保田准教授のウェブサイトです。

http://www.benikurage.com/

 ではでは・・・。

2009年8月12日 (水)

グリッドコンピューティングで小児がんの新薬開発

 最近では、新薬を開発する場合、標的となる分子に結合し、薬効を発揮するかどうかは、コンピュータによるシミュレーションによって、ある程度はわかるようになっています。 

 ただし、こうしたシミュレーションは、膨大な演算を必要とするため、世界的な製薬企業では、スーパーコンピュータを導入し、新薬候補化合物のスクリーニングを行っているようですが、限られた予算の中で細々と(失礼!)研究を続けている研究者がスーパーコンピュータを導入するなんてことはできるものではありませんよね。

 そこで、活用されているのがグリッド・コンピューティングです。世界中のパソコンが利用されていない時のCPUパワーを、インターネットを介して活用するもので、私は地球外知的生命体を探すプロジェクト「SETI(=Search for Extra-Terrestrial Intelligence)」で活用されたことで、グリッド・コンピューティングってものを知りました。

 グリッド・コンピューティングに参加するのは決して難しいことではなく、参加者はグリッド・コンピューティングによる研究を実施しているラボ(or代行機関)のウェブサイトにアクセスし、専用のソフトウェアをダウンロードするだけ。後はパソコンが使われていない時に自動的に演算して、演算結果はラボのホストコンピュータに送られるようになっています。

 ですから、世界中の人が容易に参加できるので、個々のパソコンのCPUパワーは小さなものでも、数万台、数十万台(もっと多いのかな?)のパソコンが参加することで、インターネット上に仮想のスーパーコンピュータを構築できるというわけです。スーパーコンピュータを導入するほどの潤沢な予算がない研究者にとってはありがたいテクノロジーといえるでしょう。

 で、そのグリッド・コンピューティングを活用した新しいプロジェクトが進行中であることを、毎日新聞が紹介しています。

 詳しくは、以下のサイトの記事をご覧いただきたいのですが、千葉県がんセンターの中川原章センター長らの研究グループによるプロジェクトで、難治性小児がんの神経芽腫の新薬候補化合物のスクリーニングをグリッド・コンピューティングで行うとのことです。利用するグリッド・コンピューティングは、IBMが非営利で運営する「ワールド・コミュニティー・グリッド(WCG)」で、そちらのプレスリリースがありましたので、併せてご覧ください。

 日本におけるグリッド・コンピューティングは、以前、NTTデータが“セル・コンピューティング”とのブランド名でビジネス展開を試みていて、私自身、2度ほど取材をさせていただいたことがあるんですが、収益が見込めないという判断から、昨年3月に事業は停止していました。

 そのため、日本では、グリッド・コンピューティングによる研究プロジェクトは成立しないのかなぁ~って、いささか落胆しつつ傍観しておったんですが、非営利事業であっても、こうして実施されるのは喜ばしいことと言えるでしょう。

 今回のプロジェクトでは、約300万種の化合物の中から、約20種類の有望候補を絞り込むんだそうです。細胞を用いたスクリーニングでは300万種の化合物の調べるなんてことは到底できないんだけど、コンピュータの力を借りれば、それができるんだから、よい結果が導きだされることを期待したいですね。

http://mainichi.jp/select/science/news/20090810ddm002040148000c.html

http://www-06.ibm.com/jp/press/2009/03/1703.html

 グリッド・コンピューティングへの参加を希望される方、興味のある方は、こちらのサイトをご覧ください。

http://www.worldcommunitygrid.org/projects_showcase/hfcc/viewHfccMain.do

 ではでは・・・。

2009年8月11日 (火)

ウイルス注入で悪性脳腫瘍を叩く!

 遺伝子組み換えしたウイルスでがんを叩くという、“ウイルス療法”の臨床試験が実施されることになったと東京大学が発表しています。

 東京大学のプレスリリース(以下、サイトをご参照ください)によると、臨床試験を実施するのは東京大学医学部付属病院トランスレーショナルリサーチセンターの藤堂具紀特任教授(副センター長)で、悪性脳腫瘍の一種、膠芽腫(再発)を対象に実施されます。

 このウイルス療法は、正常な細胞に比べ、がん細胞がウイルスの感染に弱いことに注目して開発されました。といっても、ただがん細胞のほうがウイルスの感染に弱いということだけでウイルスを投与しては、正常な細胞にも感染し、悪影響を及ぼしますから、がん細胞でだけでしか増殖できないようにウイルスに細工が施されています。単純ヘルペスウイルスのγ34.5遺伝子、IPC6遺伝子、α47遺伝子を欠失させたり、不活性化することにより、がん細胞でしか増殖できなくしたというんです。

 遺伝子を組み替えたウイルスを患者に投与してがんを叩くというと、遺伝子治療を思い浮かべますが、今回の療法が遺伝子治療ではなく、ウイルス療法と呼ばれるのは、組み替えた遺伝子ががん細胞で導入されることによってがん細胞を殺すのではなく、あくまでもがん細胞でウイルスが増殖することでがん細胞を殺すからなんでしょうね。

 興味深い臨床試験だけに、取材したいなぁ。

http://www.h.u-tokyo.ac.jp/upload/r20090810173512.pdf

http://www.ctrp.mext.go.jp/assign/arp3.html

 このウイルス療法を紹介した毎日新聞の記事です。

http://mainichi.jp/select/science/news/20090811k0000m040066000c.html

 ではでは・・・。

2009年8月10日 (月)

p53の働きを抑制して、iPS細胞の作製効率を向上

 本日(10日)、午前中にYahooのトップページのニュース項目にも挙げられていたので、チェックされた方は多いと思いますが、京都大学の山中先生の研究グループが、iPS細胞の作製効率を従来の数十倍にも高めることに成功したと発表しました。論文はNatureの電子版に掲載されているんだけど、iPS細胞関連の研究成果は関心が高いのか、多くの新聞が紹介しています。

 詳しくはNatureの論文か、京都大学のプレスリリース、もしくはニュースを報じている新聞記事をご確認いただきたいのですが、簡単に記事内容を紹介しておきますと、がん抑制遺伝子として知られるp53の働きを一時的に抑えることで、iPS細胞の作製効率を高めることに成功したというんです。

 山中グループの研究成果で、論文になったのは、今回が初めてだと思うんですが、p53の働きを抑制する話は、昨年12月にBMB2008で発表済みのようですね。

 前述の通り、p53はがん抑制遺伝子ですから、これの働きをずっと抑えたままだと、細胞のがん化が促進されてしまうので、iPS細胞の作製時だけ、おとなしくしておいたもらうため、山中グループでは、RNAiを活用してp53の働きを抑制。これで作製効率をぐっと高めることができたようです。

 この研究自体、興味深いことではあるんだけど、今回は山中グループだけでなく、他のグループも研究も同時に掲載しています。

 特に注目したのは、同じ京都大学でも生命科学系キャリアパス形成ユニットに所属する、川村晃久特定助教、アステラス製薬分子医学研究所の鈴木丈太郎主任研究員がアメリカ、ソーク研究所で実施した研究成果で、p53の働きを抑えたマウスの細胞から、発がん性リスクのないOct3/4、Sox2の2つの遺伝子を導入するだけで、iPS細胞を作成できたというんですよ。この研究成果で、iPS細胞のがん化のリスクがどの程度抑えられるかについては、今後の研究をまたなければならないと思いますが、p53の働きを抑えることが安全性を高めるキーポイントになるかもしれませんね。

 山中グループの研究成果

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/abs/nature08235.html

 京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニットの川村特定助教らの研究成果

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature08311.html

 山中グループの研究成果について紹介している京都大学のプレスリリースです。併せてご覧ください。

http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/pdf/090810_p53_J.pdf

 ではでは・・・。

2009年8月 9日 (日)

遺伝子組み換え作物に対する抵抗感ってまだまだ根強いんですね

 日常生活の中で遺伝子組み換え作物(以下、GMOと略します)を含む食品か、含まない食品かを選択する機会ってほとんどないから、あまり意識することはないんですが、世の中のGMOに対する抵抗感ってまだまだ根強いんですね。そんなことを今一度、実感させられる記事が産経新聞に掲載されていました。

 いつものことながら、詳しい記事内容は、以下のサイトをご覧いただくとして、簡単に記事内容を紹介しておくと、遺伝子組み換えによって開発されたサントリーの青いバラや、群馬県が医療用の人工血管を作る素材用にGM蚕を開発使用としている話題を紹介した上で、農林水産省が平成19年に実施した調査で、7割以上がGMOに対して「不安」という見解をしめしていることを取り上げ、今なお消費者の抵抗感は根強いって論評しています。平成19年の調査だから、2年前ではあるけれど、その後、大きな変化はないということなんでしょうね。

 だからこそ、日常生活に口にする食品への応用ではなく、生花や医療機器なら実用化できるという判断なんでしょうが、食べるものはダメで、医療機器はOKという感覚には、若干疑問を感じてしまいますが、まぁ、それはそれでいいでしょう。

 でも、GMOって、産経新聞が指摘するように、一般の方々が抵抗感を覚えるほど、いけないものなんでしょうかねぇ。GMOが出始めの頃なら、まだどこの馬の骨ともわからぬものだけに、不安感を抱くのは理解できますが、日本はともかく、アメリカでは普通に食べられているわけでしょう。家畜飼料まで視野に入れると、相当数の家畜がGMOを含む飼料を与えられて飼育されているわけですよね。

 しかし、それでGMOの食品が原因となった何らかの健康障害が引き起こされたんでしょうか。私は知らないので、ご存知の方がいらっしゃれば、ぜひご紹介しただきたいのですが、これまでそうした問題が生じなかったら、GMOに対する抵抗感って、もう少し和らげてもいいんじゃないかなって思うんですが、どうですか・・・。

 といっても、私自身、GMOを積極的に普及させよ・・・って考えているわけではないんですよ。というのも、GMOが一般圃場での盛んに栽培されるようになれば、時には花粉が飛散して、周囲に自生している近縁種との交雑することも起こりえるでしょう。一度、交雑によって野生株にGMOの遺伝子が混入してしまうようなことがあれば、人間の力では原状回復はできないわけですから、この問題については慎重のうえにも慎重にならないといけないと思うんです。だから、健康への影響は、それほど心配していないんですが、「GMOの栽培OK! どんどんやっちゃって!」とは言えないわけですよ。

 ただし、飛散した花粉が近縁の野生株と交雑する可能性はあるといっても、植物の花粉が無限に飛散していくわけじゃないでしょう。GMOを栽培する圃場の周囲に十分な緩衝地帯を確保しておけば、野生株との交雑は抑えられるでしょうから、GMOだというだけで短絡的に否定してしまうのには大いに疑問を感じてしまうんです。

 この産経新聞の記事が紹介している、青いバラやGMO蚕が今後、どういう風に社会に受け入れられていくのかはわからないけれど、GMOの産業化に向けて重要な試金石になると思うし、実用化するかどうかはともかく、最低限、GMO関連の研究は進めておいたほうがいいと思うんですがいかがでしょうか。

http://sankei.jp.msn.com/science/science/090807/scn0908072215003-n1.htm

http://sankei.jp.msn.com/science/science/090807/scn0908072215003-n2.htm

 サントリーの青いバラについては、こちらをご覧ください。

http://www.suntory.co.jp/company/research/hightech/blue-rose/index.html

 群馬県が開発しようとするGM蚕については、こちらをご覧ください。

http://www.pref.gunma.jp/cts/PortalServlet;jsessionid=14E41C659F0EB6576CAB68A90098E9D0?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=80797

 ではでは・・・。

2009年8月 8日 (土)

尿意を感じるメカニズムを細胞レベルで解明

 膀胱に尿がたまれば、尿意を感じ、トイレに行きたくなる・・・。誰でも1日に数度、感じていることだけど、尿意を感じるメカニズムってこれまで解明されていなかったんですね。

 そのことを知ったのは、今回、尿意のメカニズムが解明されたっていう、自然科学研究機構生理学研究所のプレスリリースを見たからです。

 いつものことですが、詳しくは以下のプレスリリースをご覧いただくとして、ざっとプレスリリースの内容を紹介しておきますと、今回の研究は自然科学研究機構生理学研究所の富永真琴教授と山梨大学医学部泌尿器科の武田正之教授らによって共同で進められ、研究グループは尿意のメカニズムを解明するのに、膀胱上皮細胞にあるTRPV4という分子に注目。この分子が発現している細胞をシリコン上で培養した上で、シリコンを引っ張り、尿がたまって膀胱が膨らんだ状態を再現したところ、この分子が活性化され、細胞の伸縮を感知していることがわかったっていうんですよ。

 さらに、細胞が伸びた時に、この分子を通過して、細胞内にカルシウムが入り込むことで、尿がたまったことを神経に伝達されるとのことです。

 実に明快な研究成果ですね。尿がたまることで、組織が伸びるという現象を、シリコンの培養器を用いて、それを伸ばすことで再現するっていう実験のアイデアには、ちょっと上から目線の言葉になって申し訳ないんですが、つい感心してしまいました。

 このセンサー分子をターゲットとした薬剤開発によって、頻尿の改善が期待できるとのことなので、今後の研究にも期待することにいたしましょうか。

http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2009/08/post-24.html

http://www.sannichi.co.jp/local/news/2009/08/06/5.html

 ではでは・・・。

2009年8月 7日 (金)

生活支援ロボットの実用化を目指したプロジェクトがスタート

 世界に先駆けて二足歩行ロボットを開発するなど、日本のロボット研究が世界のトップクラスであることは周知の事実だと思いますが、一般家庭での生活支援ロボットの実用化となると、私は悲観的な印象をもっていました。

 というのも、ロボットの動きを作ることについては多くの優れた研究成果が得られていても、ロボットを一般家庭に持ち込んで働かさせるとすれば、まだまだ開発すべき課題は多いと感じていたからです。

 例えば、3月に行われた新しいヒューマノイドロボットHRP-4Cを発表する産総研の記者レクに参加している時でも、周囲が少しざわざわしただけで音声認識機能がうまく働かない場面が何度かあり、雑音も多い普通の生活環境にロボットを導入するには、まだまだ課題はあるなぁ~っていう認識を新たにしたところでした。

 HRP-4Cに搭載されている音声認識機能が、最先端技術のものなのかどうかわからないので、短絡的に「音声認識機能はまだまだだ」と判断できないとも思いますが、過去、雑音ばかりの環境でも利用者の音声を認識して動くロボットを見たことがないので、一般家庭で使ってもらうというのは難しいのかなって思っているんですよ。

 ただし、研究者は介護をはじめとする生活支援ロボットの実用化に向けた意気込みは大きなようで、新たな研究プロジェクトを開始するようです。このプロジェクトで核となるのが、生活支援ロボットの普及に必要不可欠な、安全技術、安全基準の確立でして、今後、5年間での確立を目指すというのです。

 詳しくは、以下に紹介するウェブサイトをご覧いただきたいのですが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産総研の共同プロジェクトで、(1)生活支援ロボットの安全性検証手法の研究開発、(2)安全技術を導入した移動作業型(操縦が中心)生活支援ロボットの開発、(3)安全技術を導入した移動作業型(自律が中心)生活支援ロボットの開発、(4)安全技術を導入した人間装着(密着)型生活支援ロボットの開発、(5)安全技術を導入した搭乗型生活支援ロボットの開発の、5つの研究を推進していくようです。

 プロジェクトの中心になっているのはNEDOと産総研ですが、日本自動車研究所、労働安全衛生総合研究所、名古屋大学、日本品質保証機構、日本ロボット工業会、パナソニック、トヨタ自動車などなど、さまざまな研究機関、業界団体、ロボット産業関連企業が参加しています。

 まぁ、今回のプロジェクトは安全性を検証するための手法を開発する(1)以外は、すべて安全性技術の開発が主目的になるので、製品開発的な意味合いをもったものではないようですが、近い将来の製品開発に向けて、必要不可欠な課題だけに注目に値するでしょう。

 特に自立型の生活支援ロボットの安全性技術の開発に取り組む(3)については、ロボットが自律的に動く中で安全性を確保していくことっていうのは結構、高いハードルの目標だと思いますので、今後の研究の推移は、発表があればチェックしていきたいと思います。

http://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/press/EP/nedopress.2009-08-03.7279018007/

 ではでは・・・。

2009年8月 5日 (水)

基礎研究の成果を速やかに臨床研究につなげるには何が必要か?

 先月発表された、iPS細胞研究のロードマップでは、早いものだと5年以内のヒトに対する臨床研究が明記されていました。これまで細胞や実験動物を用いた研究については、行政のバックアップはあるものの、いざ臨床研究に進もうとすると、様々な障壁があって、基礎研究の成果を実用化につなげる研究ができないということをよく耳にしていたので、iPS細胞研究のロードマップが示した、5年以内に臨床研究を実施しようとする目標には正直驚かされました。

 それだけに、ロードマップが絵に描いた餅にならずに、実用化に向けた研究への進んでもらいたいと願うばかりなのですが、今度は、健康研究促進会議が、ライフサイエンスの基礎的な研究成果を速やかに社会に還元するための政策を盛り込んだ「健康研究推進戦略」を発表しました。

 この健康研究促進会議は、文部科学相、厚生労働相、経済産業相、科学技術政策担当相や有識者により、昨年7月に発足したもので、7月31日に開催した第6回会議で、前記の「健康研究推進戦略」を取りまとめたのです。

 で、この「健康研究推進戦略」なんですが、橋渡し研究(基礎研究の成果を臨床研究につなげるための研究)や臨床研究を推進するための研究拠点を設け、研究資源の拡充を図っていくことを謳っています。詳しくは、以下のサイトからダウンロードできるPDFファイルをご覧いただきたいのですが、中でも私が興味をもったというか、これはぜひやってもらいたいと思ったのが、「臨床研究に従事する専門家、事務(実務)担当者の確保」です。

 臨床研究を実施するとなれば、機関内倫理委員会をはじめ、場合によっては中央省庁(主に厚生労働省でしょうか)に臨床研究の開始を認めてもらわなけりません。ただ、その申請だけでもかなり煩雑なものになってしまうというのです。しかも、現在の大学に、そうした申請手続きをサポートする専門スタッフはいないわけですから、結局、研究者が自分でやらなければなりません。これでは研究がおろそかになってしまうのは火を見るよりも明らかでしょう。だからこそ、「臨床研究に従事する専門家、事務(実務)担当者の確保」は是が非でも達成していただきたいのですよ。

 といっても、臨床研究に進めるほどの基礎研究の成果は、そんなに多いわけではありませんから、各研究機関に専門スタッフを配置する必要はないでしょう。せめて各地域にスタッフがいて、臨床研究を目指している研究者を、事務作業でバックアップするスタッフを配置し、研究者がいつでも相談できるようにしてもらいたいものです。例えば、大規模な臨床試験でなくなって、民間のCROと連携したっていいわけですしね。

 というわけで、今回の戦略は、臨床研究の推進を強力にバックアップするものになると思いますが、プランだけを掲げられても、意味はありません。今後の実施に期待することにいたしましょうか・・・。

http://www8.cao.go.jp/cstp/project/kenko/haihu6/haihu-si6.html

 ではでは・・・。

2009年8月 4日 (火)

やっぱり雲が減ると地球は温暖化するようだ

 先日、このブログで取り上げた、黄砂の研究報告では、雲が増えると地球温暖化が促進されると紹介されていたんですが、それとは真逆の研究成果が、SCIENCEに掲載されたということで、産経新聞が紹介しています。

 詳しくは、以下の記事をご覧いただきたいのですが、簡単に記事内容を紹介しておきますと、アメリカのマイアミ大学のエイミー・クレメント教授の報告によると、太平洋上の雲が50年前に比べて減少しているために、太陽光が直接海面に降り注ぎ、温暖化を促進している可能性があるというんですよ。

 これは雲量の増加によって、地球の表面全体での太陽光の反射率(アルベド率)が変わって、太陽の熱エネルギーを吸収しやすくなるのか、太陽光が地表に届くまでに宇宙空間への反射されてしまうのかを決めているわけで、地球温暖化に影響するっていう理屈は、実によくわかるわけですよ。

 その上で、クレメント教授は、IPCCの気候変動予測に用いられる予測モデルのうち、雲の減少を正しく予測していたのは、イギリスの気象局のモデルだけと指摘。しかも、このモデルによる予測では、大気中の二酸化炭素濃度が2倍になると、4.4℃上昇すると予測しているんだそうです。というわけで、唯一、雲の減少を正しく予測していた予測モデルに従えば、今、考えられているよりも地球温暖化は進むぞ、とクレメント教授は言いたいのかしれませんねぇ(深読みしすぎでしょうか・・・)。

 でも、本当に雲の予測ってできるんでしょうか? 雲の減少を正しく予測したのは、1つの予測モデルだけだったということは、それが本当に正しく言い当てたのか、偶然当たったのかってのは検証しようがないと思うんですが・・・。

http://sankei.jp.msn.com/world/america/090804/amr0908040909001-n1.htm

http://sankei.jp.msn.com/world/america/090804/amr0908040909001-n2.htm

 ではでは・・・。

2009年8月 2日 (日)

東北大学 核兵器開発が疑われる機関出身の留学生を受け入れていた

 原子力工学は、平和利用されている限りはいいんですが、一度、悪意をもって利用されれば核兵器の開発につながるだけに、留学生の受け入れなどは慎重にならないといけないなってことを今一度、実感させられるニュースを読売新聞などが報じています。

 詳しくは以下の記事を参照いただきたいのですが、簡単に記事内容をご紹介しておきますと、核兵器開発への関与が疑われるとして経済産業省が作製した規制リストに載った研究所出身の留学生が、東北大学の原子力工学の研究室に留学していたことが明らかになったようです。

 問題の研究所は、イランのテヘランにある「ジャッベル・イブン・ヤハーン研究所」で、2004年にリストに載ったとのこと。ならば、原子力関連技術の研究開発をしている研究者には、このリストが周知されているはずなんですが、2006年7月に経産省は職員を東北大学に派遣し、説明したものの、留学生を受け入れた研究室の教授は、その説明会に欠席しており、昨年までリストの存在を知らず、留学生を受け入れてしまったようです。

 留学生が東北大学在籍時に学んだ内容は、核兵器開発につながるものではないとのことですが、やはり慎重にすべきことなんでしょう。ただし、こうしたリストに基づく、規制は誰がどのように実施するのかについては、しっかり体制作りをしないといけないんじゃないかなって思うんですが・・・。

 今回の一件の経緯について、新聞が報道している内容を見る限り、経産相も、リストは作るものの、留学生を受け入れるかどうかは、大学の判断に任せていたわけでしょう。そりゃ、原子力工学の研究者なら、イランなど、核兵器開発が疑われる国からの留学生の受け入れには慎重にならないといけないとは思いますが、これもあくまでも結果論でしかないわけで、規制をしっかりと運用しようとするなら、大学任せにしていた経産省にも歌詞があるってものなんじゃないかなぁ。

 だから、今回の一件を教訓に、規制をしっかり運用する体制をいかに作っていくか・・・。経産省、文科省、外務省が連携して、留学生を受け入れる審査体制を作ることが必要なんじゃないでしょうか。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090731-OYT1T00603.htm

 ではでは・・・。

 

« 2009年7月 | トップページ | 2009年9月 »